この記事では、Nix flake を使って最新の Coalton を導入し、SBCL から利用する方法を紹介します。
nix とは、クロスプラットフォームで動作する純粋関数型パッケージ管理システムです。 パッケージの全ての状態を厳密に区別し、状態ごとにパッケージを富豪的に格納することで、依存関係地獄が発生しない利点があります。純粋関数型を標榜するパッケージマネージャは Haskell に強く影響をうけた Coalton を使うユーザーにとっても魅力的でしょう。さて、詳しい説明は Nix 公式のウェブページに任せます。ひとまず便利なパッケージ管理ツールがあると理解していただければ問題ありません。ここでは Nix で Coalton をインストールする方法について解説します。
Nix には、たくさんのパッケージが登録されており、もちろん SBCL や CCL といった Common Lisp の処理系も Nix でインストールすることができます。さらに、Quicklisp もミラーされており、Quicklisp に登録されているライブラリを Quicklisp なしに SBCL から使える環境を構築されています。そして Coalton も Quicklisp に登録されていることから Nix 経由で Coalton をインストールすることができます。
しかし、Quicklisp 経由で Nixpkgs (Nix の標準的なパッケージリポジトリ) に登録された Coalton には問題があります。第一に Quicklisp が Coalton の更新を取り込む頻度が不定期であること。本稿執筆時点 (2025 年 10 月) 時点での最新の更新は 2025 年 6 月の Coalton です。
第二に、Nix の Quicklisp のミラーリングも不定期であること。Nix には膨大なパッケージが登録されていることもあり、限られたリソースで Nixpkgs に Quicklisp のミラーリング (ビルドエラーの解決を含む) を行うタイミングが不定期になってしまうのはしかたありません。
さてこの 2 つ問題から Nix に登録されている Coalton は常に古い Coalton となってしまっています。とくに Coalton は現在活発に更新されており、GitHub にあるソースコードから直接インストールすることを推奨されている現状を踏まえると、 Nixpkgs にある Coalton を使うことは厳しいでしょう。
われわれは 開発リポジトリに flake.nix を置くことでこの問題を解決します。
github:coalton-lang/coalton 自体を Nix のサードパティリポジトリとして公開することにしました。これにより、Coalton のユーザーは自身の開発環境にに "github:coalton-lang/coalton" を登録することで、最新の Coalton をインストールすることができるようになります。
ここでは Nix flake をつかった 設定方法を説明します。
ここでは 純粋関数型のパッケージ定義の入力 として coalton を設定します。
ただし Coalton 側のパッケージで便宜上定義されている、ベースとなる中央リポジトリ (つまり Nixpkgs) を上書きする指示 inputs.nixpkgs.follows = "nixpkgs" を追加します。これにより、最新の Coalton を使いつつ、ベースとなる中央リポジトリを柔軟に変更することができます。
inputs = {
nixpkgs.url = "github:nixos/nixpkgs/nixos-unstable";
coalton = {
url = "github:coalton-lang/coalton";
inputs.nixpkgs.follows = "nixpkgs";
}
};オーバーレイの概念を理解するのは少し複雑です。なぜなら、Common Lisp と Nix の間にある複雑な関係を理解する必要があるからです。ご存知の通り Common Lisp のライブラリの依存関係の解決のデファクトスタンダードは ASDF です。 この ASDF は、Common Lisp の処理系内部に密接に結合しています。 この密結合は、Common Lisp の処理系の傘下にライブラリが配置される、というような依存関係を描きます。 つまり、Cのように実行ファイルや実行環境とライブラリが対等に存在する形にはなりません。 要するに、Common Lisp はライブラリを 処理系の中に取り込んで 使うため、Nix 側でもCoalton 入りの SBCL という特別なパッケージを動的に作る必要があります。この既存のパッケージ(SBCL)をカスタマイズする仕組みがオーバーレイです。
以下は Nixpkgs 内の各 Common Lisp 処理系を Coalton を追加した状態に上書きするコードです。
let
pkgs = import nixpkgs {
inherit system;
overlays = [
inputs.coalton.overlays.default
];
};以上で 最新の Coalton を nixpkgs に追加する操作は終わりです。
上記までで Coalton を追加することはできました。 最後に 追加したパッケージを有効化する方法を以下に示します。 冒頭で述べたとおり、Quicklisp に登録されているライブラリは ミラーされているので、Coalton 同様に有効化することができます。
let
sbcl-with-coalton = pkgs.sbcl.withPackages (ps: with ps; [
coalton
fiasco
named-readtables
]);では、実際に SBCL での簡単な使い方を示します。
{
inputs = {
nixpkgs.url = "github:nixos/nixpkgs/release-25.05";
coalton = {
url = "github:coalton-lang/coalton";
inputs.nixpkgs.follows = "nixpkgs";
};
};
outputs = inputs:
let
system = "x86_64-linux"; # or "aarch64-darwin"
pkgs = import inputs.nixpkgs {
inherit system;
overlays = [
inputs.coalton.overlays.default
];
};
sbcl-with-coalton = pkgs.sbcl.withPackages (ps: with ps; [
coalton
]);
in {
devShells.${system}.default = pkgs.mkShell {
packages = [ sbcl-with-coalton ];
};
};
}Nix flake の設定が完了したら、開発シェルを起動して Coalton を利用できる環境に入ります。 以下の手順で実際に確認してみましょう。
$ nix developこのコマンドを実行すると、flake.nix に定義された環境(devShell)が立ち上がり、
sbcl-with-coalton が含まれた状態のシェルに入ります。
次に、Common Lisp の処理系 SBCL を起動します。
$ sbcl以下のように SBCL 上で Coalton を読み込みます。
* (require :asdf)
* (require :coalton)
* (in-package :coalton-user)
* ;; you can use coalton!これで Coalton を SBCL 上で利用できるようになります。
上記の手順を終えると、coalton-user パッケージに入り、
通常の Common Lisp の REPL から Coalton の構文や関数を使って開発を進められます。